Occasion
旅に出ると、旅をしている人に会います。今住んでいるところにも、旅でやって来られている方もいるかも知れませんが、日常ではそういった方にはなかなかお会いすることはありません。しかしわずか1日でも、旅に出ると、やはりそこには、旅に来ている人がいて、偶然旅先で出会うことになる。
旅の目的は人それぞれです。同じ目的地でも、やっと休みが取れて、3年も前から計画していた旅で、何百キロ離れたところから何日もの旅程で来る人もいれば、ちょっと暇だったので、ブラッと日帰りで旅に来た人もいる。しかし、出発地や旅の理由は違っても、旅先で出会う人は、何かしらの共通点がある人です。例えば、鉄道が好きだったりとか、子供が高校生になって相手をしてくれなくなったとか、間接的に仕事で付き合いがあったりとか。
もしかしたら、人は引き寄せ合う力を持っていて、その引き寄せ合う力っていうのは、旅に出た時に高まるんじゃないかな?あるいはその逆で、旅に出ることで好奇心が高まり、日常ではまったく関わりあうことがない人同士でも、旅先では、なんとか関わろうとする努力を無意識のうちにしているのか?
でも、これって結局、同じことだと思います。それなりの年齢になれば、いろんな経験もしているし、いろんな趣味も関心もあります。だから、たまたま出会った人と、共通の話題がゼロってことはまずないと思います。つまり旅の力は、誰もがもっている「心のスイッチ」をオンにしているだけのこと。心のスイッチをオンにしている人同士が、引き寄せ合うのは当然のことで、旅っていうのはつまり、そのきっかけ作りのように思います。
Occasionは、出来事というニュアンス、理由というニュアンス、きっかけとか、たまたまといったニュアンスを含んでいます。Occasionっていう表現が使われると、常に日常繰り返されていることではない、っていう意味合いが伝わります。日本語で、これに相当する言葉はなかなか見つからないな、と思います。
英語圏の人も、アジア圏の人も、同じように旅をします。どちらも一人旅をする場合もあれば、団体旅行をすることもある。ただ、アジア人の場合は、団体旅行が多いと思います。団体旅行の場合は、プロの旅行会社がパーフェクトなプランニングをしてくれるから、なかなか大きなOccasionは起こりません。例えば電車が止まるといった大きなOccasionが起こったとしても、プロの力で最終的には最適な方法を取ってくれます。もちろんそれでも、たくさんの小さなOccasionが必ずありますが、団体旅行だったりするとOccasionはただの旅の話のネタで終わってしまい、自分の栄養にはなかなかならないこともあります。やっぱり心のスイッチをオンにしてOccasionを楽しむには少人数の方がよいと思います。
Occasionは、不自然な介入をすると台無しになってしまいます。一人になりたいときは一人になり、誰かと関わり合いたい時には、普段は見せない能動的なアクションが必要になります。旅の恥はかき捨てと言いますが、一人旅はまさに、人との出会いというOccasionを求める上で最適な機会と言えると思います。
人との出会いだけでなく、物との出会いもOccasionです。特に本との出会いは際立っています。目的としていた本が書店になくて、そのまま帰るという経験はあまりなく、大抵は別の本を買って帰ると思います。この時に買った本が、自分の考え方に大きな影響を及ぼすことが多々あります。別に欲しくなくても買ってしまったものもOccasion。家とか、車とか、大きな買い物をするのも、計画的な人だけでなく、Occasionの人はかなりいるのではないかな、と思います。人や物との出会いもOccasion、別れもOccasion。
一歩家から出ると、そこにはOccasionがあります。日常も重要ですが、それがためにせっかく得たOccasionを失ってしまうのも勿体無い。旅に出て、旅先で旅人と出会って、刺激を受けて、家に帰ってきて、日常に戻ってから、「一つ一つのOccasionを大事にしていきたいな」と、思いました。