Infrastructure
台風が続いています。自然の脅威に対しては、いくら準備しても万全ということはないと思います。
一方で、日本の災害に備える姿勢はすごいと改めて感じます。日本のインフラを重視するという姿勢は世界各国を見ても際立っていると思います。あらゆる物事に共通だと思いますが、これは過去の歴史でリーダーシップを発揮してくださった方々のおかげで、今の環境があると思います。
2005年ころ、北京にあるハイテクパークにある企業に技術ミーティングに行ったのですが、そこにたどり着くまでにデコボコの道を水たまりの中で進んで行ったことをよく覚えています。前日に空港からタクシーで市街に向かう際に見通しが悪く、気がついたら目の前にどんと摩天楼が現れたことを覚えています。そして、そこで働いている、英語を流暢に話し、技術も歴史も文化をよく知っている自分よりもはるかに優秀な中国の人々に驚きました。そういった超優秀な人たちによって、デコボコの道はあっという間に整備された道路網になり、北京の空気は綺麗になって見通しがよくなりました。
2010年から2014年までは月1回中国に行っていました。毎回、たった1月でこんなに変わるんだと思いました。今も中国はすごいスピードで変化し続けており、すでにデジタルの分野ではとっくに日本を追い抜いています。市場の大きさを考えれば、変化のスピードの差はどんどん広がっていくと思います。
中国が10%を超える高い経済成長率を続けたのは世界の工場として世界中に安価な製品を提供したところからだと思います。その生産は、多くの外国資本によって担われてきました。外資に対して厳しい規制があり、また出資比率も当初は100%が認められた業種はほとんどありませんでしたが、それでも多くの外資が安価な人件費と優秀な人材を目指して世界の工場である中国への投資を進めました。
私が知っているのは、それくらいです。しかしそのもっと前に、外資を迎え入れるためのインフラを整備している時代があったはずです。電気や水道がなければ外資は生産ができません。鉄や石油化学などの素材産業がなければ原材料の調達もできません。インフラがあって初めてその上に産業が形成されます。そして、そのインフラの構築のために、日本のODAは少なからぬ貢献をしていたと思います。製鉄産業ももともとは新日鉄からの技術支援です。火力発電の技術ももともとは日本の重工業からの技術支援です。インフラ構築のために、日本の民間企業も少なからぬ貢献をしていたと思います。
2010年から2014年の間は、様々な国を訪問させていただきました。ミャンマーではダウェイ、チャオビュー、ティラワの3つのプロジェクトが進んでいて、タイ資本、中国資本、日本資本がそれぞれ開発を主導していました。モザンビークでは新たなエネルギー資源開発のために新たな資本を呼び込むところでした。ベトナムのホーチミンには日本のODAによる技術供与で鉄道の駅が建設中でした。インドネシアはバイクの年間販売台数が1000万台を超えるという見込みが立っており、そのほとんどが日本メーカーでした。アジア各国にはイオンができていました。
ODAの金額は減っていますが、技術供与という形では各国への支援は今も続いています。十分な経済発展を遂げたタイなどでもまだJICAの支援枠組みは残っています。世界中の途上国で、インフラを作り、外資を呼び込み、そして自立を支援するために、今も日本の税金、そして技術が、少なからぬ貢献をしています。
資本主義は根源的には搾取の構造だと思います。強者は搾取してますます富み、弱者は搾取されてますます貧しくなる。技術と資本がある国の企業が、技術と資本がない、人件費の安い国に行って、安い賃金で過酷な環境で現地の人材を使って、富を得ることはある意味、資本主義の勝ちパターンです。日本は資本主義の国。少なからず、結果としてそういった構造の一部を形成していることは、否めません。でも、いろんな国のいろんな日系企業を訪問させていただきましたが、搾取を目的としている企業は、一切ありませんでした。断言できます。むしろ、ベトナムに行けば、ベトナムの日系企業の社長は、ベトナムのためにという発言をします。タイでも、中国でもそう。
そしてそういった企業は、洪水が起こっても、人件費が上がっても、反日感情が高ぶっても、今も事業を継続しています。現地のインフラを作るところから、自立するまでを、いろんな立場の人たちがそれぞれ、役割を果たしながら、各国の発展を応援しています。心から。
中国は今や日本の経済規模をはるかに凌いでいます。そしてその差はどんどん拡大しています。そのことを、妬む日本人はいるでしょうか?絶対にいません。むしろ、それを支援した人たち、何かしら関わってきた人たちは、喜んでいると思います。その成長を応援できたことに。
政治と経済。このテーマには、常に、利害の衝突があります。当然、どちらかが勝ち、どちらかが負けることもあります。日本は敗戦国です。利害を考えたら、復讐という言葉が出てきてもおかしくありません。でも、誰もそんなこと言わないし、考えたことすらありません。これは洗脳ではありません。日本人は、世界の人々が、自分たちと同じような生活環境で、充実した人生を送れるようになってほしいと思っています。そのために、税金を出すのは当然だし、使命感ある方は自らの手と足も動かす。これを日本はずっと続けています。世界中のインフラが整うまでは続けるでしょう。
世界中のインフラが整うのは、いつか?どうすれば、世界中のインフラが整ったことになるのか?それはわかりませんが、せっかく、大先輩たちが作ってくださった歴史を、引き継いでいくことが、私たちの役割だと思います。もともと豊かな環境で育つことができた私たち。
世界は一つになるでしょうか?そのためには、たくさんの利害を調整しないといけないと思います。道路を作った時と同じように、誰かがリーダーシップを発揮しないといけないと思います。時間がかかるから、それは何世代にも渡って行われると思います。世界中のインフラが整うことと、世界が一つになることは、同じではないかなと思います。
歴史は、インフラであり、インフラは歴史だと思います。どちらも、一人一人の当事者の心が作ってきたものです。台風が来て、自然災害の脅威を感じる時に、そのことを思い出します。そして、ずっと忘れないようにしないといけないな、と思います。