宗教と芸術と政治と – religion, art and politics-

栃木市役所に展示されている喜多川歌麿の雪月花のレプリカを見に行きました。

細部にわたった精巧さに感動するとともに、深川の雪、品川の月、吉原の花それぞれに描かれている雪、月、花が演出する当時の人々の生活について、ぼんやりと眺めていたところ、ボランティアの方が解説をしてくださりました。

雪月花三服のうち、一番最初に描かれたのが品川の月。喜多川歌麿36歳の時。雪月花それぞれに描かれた家紋の謎。吉原の花に描かれている髪型の異なる女性の意味。

芸術は、美しさだけでなく、人々の生き様とその時の政治、そして時代そのものを受け継ぐのだということを強く感じました。

 

ラファエロにしてもルーベンスにしても、ヨーロッパの芸術で宗教を描いた芸術は枚挙にいとまがありません。宗教と政治が切り離されていなかった時代。ダヴィデ像もミロのヴィーナスも、誕生の背景は宗教だったのかそれとも政治だったのか?

 

いずれにしても、生きる上での叫びが芸術を誕生させていているのではないかと思います。ちょっといたずらしてやろうという気持ちが、何百年も後に生まれた人々まで感動させ続けることができるはずがありません。

 

今年は、英仏が中心となって、オスマン帝国後の国境を定めた秘密協定「サイクス・ピコ協定」から100年。正確には異なりますが、ほぼ、シリアはフランス領に、イラクはイギリス領になります。シリアはフランスとの戦争後、イラクやレバノンの統治下に入り歴史に翻弄されます。イラクもまたクウェートの統治にあたってイギリスさらにはアメリカの介入を受け続けます。

現在の中東・アラブの混乱は、「サイクス・ピコ協定」「フサイン・マクマホン協定」「バルフォア宣言」でのイギリスの二枚舌外交が原因と言われていますが、その政治の影響を受けて生活の糧を失った人々の存在があります。

アラブの春、シーア派とスンニ派の対立など宗教がクローズアップされていますが、宗教的背景と根が深い歴史の溝は切っても切り離せないものでしょう。

 

毛沢東は共産党政権樹立にあたって、共産党に共感する外国人達を迎え入れ、特権的な待遇を与え、諸外国の人々が共産主義に共感しているということを積極的に発信し、共産党がいかに素晴らしい思想であるかということを対内的、対外的に証明しようとしてきたことはよく知られています。共産主義は宗教ではありませんが、私の感覚では、今世界を取り巻いている宗教的な対立となんら変わりありません。イスラム国が世界中の人々にユーチューブで発信していることと、根本的には同じだと思います。

 

世界的にユダヤ人の定義はないそうです。もともとイスラム教もキリスト教もユダヤ教も同じ流れから来ています。イエス・キリスト自体がユダヤ教から改宗したと言われています。歴史は不変ですが、都合のよいように解釈することは可能です。ガザ地区やヨルダン川西岸を取り囲むイスラエルの人たちが全員、肌の色が白いわけではありません。イスラエルとパレスチナの争いの中で、イスラエルがこれらの地区に居住するユダヤ人たちに生活上の支援を行ってきたという歴史もあります。

 

政治は、必ず右と左に分かれます。リベラルがあり、保守があるから、中道という言葉が生まれます。右と左があるから、議論になる。発展する。論点が明確になる。民主主義が機能する限りは表現の自由は保護されます。表現の自由が保護される限り、人々の考え方は誰かの何かの考え方に影響を受けます。ペンは剣よりも強し。そして最も強い表現は、芸術でしょう。一神教がイスラムとキリストとユダヤに分かれた。キリストがカトリックとプロテスタントに分かれた。人間は生きている限り、愛と死の営みを続けます。だから芸術に感動する。

 

政治の背景にあるのはイデオロギー。イデオロギーの背景にあるのは宗教かもしれません。でも宗教の背景にあるのは、政治かも知れません。それらを結びつけるのは芸術。

 

雪月花の深川の雪は日本に、品川の月と吉原の花はアメリカに。

これもまた政治。

 

人間は、究極的には芸術を求め続け、そして芸術と平和は不可分でしょう。今、シリア内戦を逃れて欧州中に散ったアーティスト達の美術展がシリアの首都ダマスカスで開かれているそうです。

 

人間は、本来、縦割りです。縦割りの中で、上に行こうとする。男と女という2つの性によって、子が生まれる以上は、縦割りはなくなりません。だから、誰かがてっぺんで統治しないと治りません。それはそれで必要。でも美しいものを美しいと思う気持ちは、自由で不可侵です。統治がなくても、争いをしなくてすむ世の中を実現するためには、芸術の叫びを聞き逃さないことだと思います。

 

2016-12-18 | Posted in BlogNo Comments » 

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