シェールガス – Shale Gas -
金本位制が崩壊してから、世界の通貨はドルが基軸となりました。
国際決済はドルを通じて行われることにより、ウォール街には多額の手数料が入る。
これが金融資本主義を支えてきました。世界銀行もIMFもウォール街出身者が歴任。
それが可能だったのは、金に変わって貨幣と不可分の価値を持つに至ったオイル。
あらゆる人類の生活の根底を支える水・食糧・エネルギーのうち、
エネルギーだけは、地下を掘らないと採掘できません。
そして採掘されたクルードオイルは様々な用途に利用でき、様々な産業を支える。
そのオイルを取引するのが、世界にある3つの相場、WTI、ドバイ、北海ブレント。
この3つの取引所での決済通貨はドルしか認められていません。
だから、ドルは世界の基軸通貨であり続けることができました。
1979年、ホメイニ革命で産油国イランで反米政権が誕生。
世界の警察であるアメリカはイランに経済制裁。
イランは豊富な原油をドルで取引することができなくなります。
日本はカタールと長期契約を締結し、エネルギー安全保障を維持します。
さすがの中東の大国イランも、対外取引で最も依存していた原油取引ができなくなれば、当然経済は弱体化します。
恐るべしアメリカ。
しかしここで大国中国が登場します。
なんと、中国はイランとの間で、国際通貨ではない人民元で、イランから原油の購入を始めます。
当然、中国は、相対的に安く原油が調達できる。
国際通貨でない人民元をもらっても、イランは為替として全く使えません。だから、イランはその人民元を使って、中国から製品を買うしかありません。
当然、中国は、相対的に高く製品を販売できる。
さて、イランとの取引で人民元決済の道を切り開いた中国は、次はアフリカに展開します。イランと違ってアフリカの油田の多くが未開拓。欧米石油メジャーと同じ手法で、中国三大石化企業、シノペック、CNOOC、ペトロチャイナはアフリカの開拓を行います。今度は自国資本の企業が掘った原油を、人民元で輸入。
気がつけば、国際通貨になる前から人民元決済圏が誕生し、ドル秩序が傾きます。国際通貨であるユーロ、円、スイスフランのうち、円以外はドルに対する防衛体制を敷いてきました。結果、安全な円が、形状取引ではなく、資本取引で莫大な金額で取引されるようになります。円は80円〜120円というマネージできない幅の間で振れ続けます。日本はこれ以上為替介入しても、ドルを維持するだけで自国通貨の安定性ははかれません。
その間に、中国は、淡々とアメリカ国債を購入。豊富なドルを手にします。手にしたドルで、アジアインフラ投資銀行を設立。アジアという世界最大の市場で、欧米を政治的に取り込みます。
そして、とうとう人民元は国際決済が認められ、国際通貨となりました。世界中の貿易から為替取引手数料を手にしてきたウォール街のピンチ。
そんな中、アメリカは虎視眈々と進めてきたケミカル技術でシェールガスの採掘に成功します。シェールガスがあれば、エネルギーは対外的に依存する必要はありません。古き良きアメリカの復活で、全米が湧きました。日本からのシェール企業に莫大な投資が行われます。
しかしピンチとなったウォール街にとってはそうはいきません。ドル基軸が崩れると、為替取引手数料が得られなくなります。当然、ウォール街が築いてきた金融資本秩序の維持も難しくなります。
そのタイミングで、OPECが石油の増産を行い、原油価格低下に誘導します。そうすると、アメリカのシェールガス企業は採算がとれなくなり、連鎖倒産が始まります。日本企業は莫大な損失を抱えて撤退。でも、OPECの盟主はアメリカの盟友サウジアラビア。アメリカの中で、イランとの対立とウォール街の思惑が見え隠れします。
なぜ人は右と左に分かれるのか?それを象徴する出来事として、ウォール街と蜜月の関係にあるクリントン大統領を、保護主義を掲げるトランプ氏が破りました。
フロンティアスピリッツで西部を自ら開拓してきた共和党政権を基盤とするトランプ候補が進める保護主義では、多様性を基盤とした富の集中を基盤としたクリントン氏と違い、ドル基軸の優先度は大きく下がります。
そして、古き良きアメリカの復活、雇用の維持・創出、対外依存度の低下を実践する上で、シェールガスの採掘を進めることは、その全てを満たす最適な答えと言えます。犠牲になるのは、ドル基軸だけ。損をするのはウォール街だけ。そして、ウォール街こそ、トランプ支持層の標的。
選挙中に主張していた、環境に関する発言との関係も、シェールガスがあってのことでしょう。シェールガスの採掘に使用するケミカルによる地球環境破壊の問題はまだ解決されていません。
トランプ相場で、株価が上がっています。ドルも上がっています。メディアがトランプ相場の根拠としていうインフラ投資とは何か?それは、シェールガスだと思います。
TPPとか、目の前の課題も、まさに真剣に取り組む必要もありますが、資源を持たない日本にとって、今、それ以上に重要なのは、オイルの相場だと思います。インフラ投資を増やすのは、何もシェールの採掘コストを下げることだけが答えではありません。
オイルの値段が上がれば、自然とシェールのインフラ投資は活性化します。
さて、このまま、円安にふれて、オイルの値段が上がり、原発が動かないとき、日本のエネルギー安全保障はどうなるでしょうか?
カタールとの長期契約だけでは賄いきれません。
世界中がパリ協定の発効に熱狂している中、石炭火力発電をがんがん回して、二酸化炭素を排出するのか?
これは、これから数年後、日本に住むあらゆる人々の生活に大きな影響を与える、重要な問題だと思います。