時計 – la Montre –
「トイレは何処ですか?」
と
「今、何時ですか?」
どちらも言葉を知らない国に行く上で、重要です。
いや、「今、何時ですか?」という言葉を覚える事は、もはや、「重要でした」
というべきでしょう。
今や時計にも、携帯電話にもGPS機能が付いていて、
海外についた時に、時計を再設定しなくても、
自動的に現地時間に調整してくれます。
だから、海外にいっても、今何時か、人に聞かなくても、
自分でわかります。
便利だなー。
先週、長い間愛用していた腕時計が壊れました。
大事にしていただけに、直すか、新しい時計を購入するか、心の整理がつかず、
今週は腕時計をつけないまま過ごしました。
すると、二つのことに気がつきました。
1日に何度も、腕を見て、あっ、腕時計してなかったんだ、と思ったこと。
そして、腕時計がなくても、時間を知るという意味では全く困らなかったこと。
携帯電話に時計機能がついています。
でも、私の場合はガラケーで、しかも電話などほとんどかかってこないので、
携帯電話はカバンの中か、ポケットの中にしまっています。
携帯電話を見るのは結構面倒くさいので、
時間を知りたい時は必然的に腕を見ます。
すると、1日のうちに、こんなに何回も、時間を知りたいと思っていたんだと、気がつきます。
少なくとも、1時間に1回以上の頻度で、腕を見ています。
そして、あっ、腕時計ないんだ、今何時だろう、と思って周りを見渡すと、
気がつけば、世の中、時計だらけです。
駅も、職場も、レストランも店舗も、何処に行っても時計があります。
わざわざ携帯電話を開かなくても、周りを見渡すだけで何処かしらかに時計があります。
何て便利なのでしょう。
でも、いつからこんなに、世の中に時計が溢れるようになったんでしょうか?
少なくとも、昔はこんなに時計はなかったと思います。
大きなノッポの古時計、おじいちゃんの時計が、ぼーん、ぼーんと、
何時だよって知らせてくれました。
だから、時間を意識するのは、1時間に1回。
私の家にも、子どもの頃、大きなノッポの古時計じゃないけど、
ポッポーと時を告げる時計がありました。
たまに電池が少なくなって、時計が時間を告げるタイミングが少しずつ遅れていく。
何回か、時計に騙された後で、遅れていることに気がついて、
「おっと電池を交換しなければ」、とそんな感じでした。
遅れていることに気がついた家族は、そこでまた、
日常の笑顔と団欒のネタを手にします。
しかし、最近は、分単位で時間を気にします。
あと、1分だけ待って。とか。
あと、10分で終わらせます。とか。
仕事をする上で、約束を守る上で、時間を守ることはとても大切。
しかし、約束をするにしても、あまりにもギリギリの約束をしてしまいます。
たまに、時間に遅れて、言い訳をする。
「電車が遅れた」とか。
2年近く前に転職して知ったのですが、電車が遅れると遅延証明書というのが出るそうです。
今の会社は、電車が遅れると、遅延証明書というのを出さなければならないルールになっているとのこと。
もちろん、そんなものを正直に出している人などはいないと思いますが、
しかしその遅延証明書というのが存在している時点で驚きです。
心の余裕は、時間と密接に関連しています。
時計がこれだけたくさん溢れているということは、
つまり、人々に心の余裕がなくなっているということを意味すると思います。
心の余裕がないと、集団生活などできません。
困っている人に手を差しのばすことができません。
このWEBサイトで、奈良一刀彫りの取材をした時、
職人は1人前になる前に、10年間、鑿をひたすら磨き続けると聞きました。
そういう職人さんがつくった人形だから、魂の響きを発することができるのでしょう。
人生50年、毎日戦争ばかりしていて、長生きができなかった時よりも、
平和になって、長生きして、たくさんの時間を手にできるようになった今の方が、
毎日時間のゆとりがないというのは、皮肉としか言いようがありません。
日が昇り、目を覚まし、日が落ちて、寝る。
昼が長い時に、一生懸命働いたから、日が短くなるにつれて、その成果が実っていく。
実ったものを、厳しい冬の間、食べる。
そして、厳しい冬の終わりとともに、綺麗な花や香りが春の訪れを歓迎してくれ、
人々は、それで前向きな気持ちを取り戻して、再び日が長くなるにつれて一生懸命働く。
これが、本来の時間だと思います。
太陽歴とか、太陰暦とか、1年を単位にして時間を作っていますが、
それは天から与えられたものに感謝するための時間。
決して、細かく細かく時間を細分化して、その細分化した時間の中に何かを詰め込めるだけ詰め込むためのものではないと思います。
我々は、時間に追われすぎではないでしょうか?
余裕を取り戻して、思いやりの気持ちで、みんなで笑顔で、団欒で過ごしましょう。