不便 -inconvenience-
かつては紙1枚作るのに多大な工数がかかっていました。
和紙の1枚1枚の品質は気持ちいい。
手触りも、白さも、独特の重みがあります。
そもそも白という色は作り出すのが難しい色です。
光を100%反射させると白、100%透過させると黒。
理屈は簡単ですが、世の中にある物質で100%というのはあらゆる意味で難しい。
今、白色を作り出す物質は無機物である酸化チタンくらいしかありません。
しかし紙に酸化チタンを分散させていたらコストがあいません。
そこで今ある紙は、化学薬品によって、白さを作り出している。
欧米人とアジア人とでは、目の色が違うので、白の好みも、白の上にのる黒の好みも違う。
化学的な調合で微妙な色を作り出しています。
レシート、印刷物、チケットなど、毎日大量の紙が消費されます。
たくさんの木片チップが化学物質でじゃぶじゃぶに洗われて白くなります。
しかし、和紙の場合、そんな人の好みなど関係ありません。
天然の色そのまま。
好みとは関係ないのに、誰もがいい色と思う、これこそ本物の証だと思います。
和紙は、高速プリンターや印刷機には耐えられません。
和紙を使うならば、1枚1枚思いを込めて書く手書きに限る。
色も人の好みに合わせていなければ、用途も限定される。
そんな不便なものだけど、誰もがいいと思う。
昔は、一つ一つもものが、不便だったと思います。
不便なものを、知恵を絞って、大事に使う。
使っては、感謝する。
受け取った方は感動する。
世の中にものが溢れるようになってから、人々はより便利なものを求めるようになりました。
形状安定シャツ。
どんな化学物質が使われているのか知りませんが、アイロン不要です。
どんな化学物質が使われているのか知りませんが、とにかく真っ白。
化学物質の強みは、大量生産。
プリンターのトナーも大量生産。
今では釜でトナーを重合させて作っています。
コストは下がりますが、なんだか寂しくなります。
子供の頃、あまりにも字が下手だったので、
坂の上にある書道教室に通っていました。
書く時間よりも、墨をする方が時間がながい。
そうしている間に、心が整えられてきます。
だから、字は書になる。
便利からは、本物は生まれないのかもしれません。
もっともっと、不便な環境に身を置かなければ、本物の人間には成長できないな、と思いました。