Contrast
桜もすっかり散って、新緑の季節がやってきます。新緑の季節は一番好きです。新しいことが始まる。そんなエネルギーに満ち溢れています。
3月末に、公園を歩いていた時、独り言を仰りながら歩いていらっしゃる方がいました。私もよく独り言を言います。だから特に、何も気にせずに、横を通り過ぎました。
すると、独り言ではなく、明らかに誰かと喋っています。それも、心の中にいる誰かと。盗み聞きするつもりはなかったのですが、聞こえてしまいました。おそらく、悲しい別れがあって、そしてその悲しい別れがあった人とのすてきな思い出がある。そんなことを感じる独り言でした。そしてその思い出は、その公園のその道を、桜を見ながら歩いたものであると感じました。
出会いがあり、愛があり、別れがあり、思い出がある。
自分のことではないのですが、私にもたくさんの出会いと別れがあるし、私がその方と同じくらいの年齢になった時には、今よりももっとたくさんの思い出があると思います。
そしてその思い出は全部良いものなのでしょうが、それを思い出すということは、別れがあるということ。これから、たくさんのつらい別れを迎えることになるということを、その言葉を聞いて重く感じてしまいました。
今年の桜はわずか一週間で散ってしまいました。来年咲いてくれます。毎年、ほぼ同じ時期に桜は咲いてくれて、その後、エネルギーのみなぎる新緑の季節がやってきます。桜は、すてきな思い出を思い出させてくれる。そして桜は、散ってくれる。
思い出は忘れてはいけませんが、しがみついていると、前に進めません。とてもつらいことですが、桜は毎年咲いて、毎年散ることで、そのつらいことを後押ししてくれているように感じます。新緑は、そのつらいことを乗り越えて、前に進んだ人を包み込んでくれていると感じます。
桜が散るから、若葉が出ます。出会いがあるから、別れがあります。桜の花は、ピンクですが、葉っぱは緑です。四季のコントラストは、心のようです。季節の変化は、常に、心を動かしてくれます。
過去と未来もコントラスト。
正義と悪もコントラスト。
生と死もコントラスト。
勝ちと負けもコントラスト。
愛と憎しみもコントラスト。
右と左もコントラスト。
どちらか一方だけを選ぶことはできないと思います。
一方があるから、もう一方が存在する。
だから、両方受け入れるしかありません。
四季に合わせて心を流していくことしか、人にはできないんだったら、思い出を綺麗に作って、大切に守って、桜が咲く時に毎年思い出して、桜が散る時に毎年忘れて、そんな日々を送り続けたいな、と思います。