Famers Market
アメリカで広がっているファーマーズ・マーケット。化学肥料などを使わずに自然のまま育てた農産物や畜産物のためのマーケットです。2011年に一度訪問しましたがその時は、なるほど、いい試みだなって思ったくらいで、その重要性に気がつきませんでした。しかし最近は、これこそが今の日本に必要なことだなと感じています。
日本でも昔から農家直売はあります。安くて美味しい。しかし産地まで買いに行かなければその恩恵に授かることができません。産地まで行って購入することができるのは、せいぜい1品目か2品目でしょう。それでは、料理はできない。スーパーマーケットで農産物も畜産物もなんでも買えますが、スーパーマーケットでは、いくら新鮮とはいえ、袋詰めされて物流網に乗ってからのものなので、当然産地直売には勝てません。だから生産者自身が、とれたてを、その場で売るのではなく、朝取れたものを、他の生産者達が集まるところまで持ってきて、昼売るってことにしないと、買い手が新鮮なものを新鮮なまま、多品目購入するってことは無理だと思います。だから、それを実現させるのがファーマーズマーケット。とてもシンプルな考え方だと思います。
流通網が発達し、欲しいものを欲しい時に手に入れられる時代。ヤマト宅急便の労使協議が話題になっていますが、需要がある限りはビジネスが成り立つので、通販物流のマーケットはどんどん拡大していくでしょう。しかし、どれだけ物流網、流通網が発展したとしても「出来立て」「とれたて」はネットで購入は難しいですし、「直売」はなおさら無理。ネットで買えない「新鮮」という付加価値だからこそ、農家が直売するファーマーズマーケットが、これから必要になると感じます。
一昨年のフランス映画祭で上映された「エール」。主人公はチーズ農家。チーズの物語ではないですが、あの農家のチーズは美味しいに違いありません。主人公が、友人に、「家畜に感情移入してはダメだ」と言います。最後その家畜を殺すことになるから。一方で、最後、大きな選択をした主人公が家畜を大事に大事に、いつまでも抱きしめているシーンがあります。これが、農家だと思います。農家で生産される農産物や畜産物は、愛。この愛がのった食材をその愛を失うことがないまま購入ことができるのが直売。直接家畜を育て、直接殺した生産者、直接種をまいて、直接刈り取った生産者から購入できるのがファーマーズマーケット。
国土の広いアメリカでできるのだから、日本でできないはずはありません。もちろん生産者の仕事は売ることではなく作ること。その忙しい生産者が無理に時間を作って売るのがファーマーズマーケット。大量生産した食材ではなく、一つ一つ愛を込めて作った食材を売るのがファーマーズマーケット。当然、そのファーマーズマーケットで購入する新鮮な食材は、流通網に乗っている食材よりも割高になるはずです。だから、売れるか、売れないかというビジネスの話ではなく、そこに行けば、生産者から直接購入できるということが重要。生産者は、自分が精魂込めて育てた食材の良さを、理解してくれる人に購入してもらいたいと思うはずです。
東京のベッドタウンが超高齢社会を迎え、財政上の深刻な課題を抱えています。ところが千葉にしても埼玉にしても、たくさんのファーマーズがいます。週に1日でもファーマー達がマーケットで新鮮な食材を直売すれば、そこではたくさんの人々が歩き、話し、栄養のよいものを食べる。これこそが生活習慣病の予防になると思います。生活習慣病予防ができれば医療費は下がり、財政負担も減ります。
大都市圏の真ん中目指して超高層マンションを立てるのもよいですが、大都市圏の周りに向かってファーマーズマーケットを作ることが、人としての豊かさ、健康長寿、生活の質、これらを向上させるためにこれから必要になってくるんじゃないかなと思います。
大学の時、愛知県に帰省するたびに、毎回、金沢の近江町市場や敦賀のさかな町で、海産物を購入していました。日本ほど、産地直売のために豊かな、恵まれた環境にある国はありません。ビジネスではなく、愛のために、ファーマーズ・マーケットが広がるといいな、と思います。