料理 -cuisine-
人が食事をするのは基本的に1日3回。1年が365日なので、1年で1,086回。100歳まで生きたとして、一生のうち食べることができる食事は10万食くらいです。20歳くらいまではいいでしょう。まだまだたっぷり食べる機会はある。でも年をとっていくにつれて、残された食の機会はどんどん減っていきます。だったら、毎回うまいものを食べたいと思うのが人の本能でしょう。今の私たちは幸せです。和食も、中華も、ハンバーガーも、パスタも、ピザも、かなり頑張ればフランス料理も食べることができます。
石器時代には、そうはいきません。今日食べる飯は、今日自然から調達する。そうやって、狩をして得た収穫をみんなで分かち合いました。そして稲作をはじめとした農耕が開発されてからは、今日調達するということはなくなりました。みんなで田畑を耕し、みんなでタネを蒔き、みんなで収穫をして、豊作を祝いました。食はそもそも分かち合うもの。そういった文化が世界各国で起こり、寒い土地では麦が、暖かい土地では米が主食して定着します。中国でも北の方では麦が中心。餃子の文化が根付きます。世界各国、それぞれの土地に応じた食文化が誕生していきます。食は、分かち合うことから、餌から文化に変わったんじゃないかな?人間は餌を食べるのではなく、文化として食すようになったから、脳が発達したんじゃないかな?
さて、インドや東南アジアでは、香辛料という文化が生まれます。一方、ヨーロッパ大陸では内陸部まで肉を運んでいる間に腐ってしまうという問題があり、その問題を香辛料が解決できることがわかりました。そこでインドや東南アジアで取れる香辛料のヨーロッパへの貿易が始まりました。最初は香辛料の保存や消臭といった機能が求められたのでしょうが、次第に、香辛料の味が求められるようになりました。そうやって、食文化は海を渡るようになります。
貿易が、いつ、どこで始まったのか知りませんが、あらゆる意味で、食と貿易は切っても切り離せないと思います。貿易は取引であり、文化交流であると思います。
海外に行くと、現地料理を食べます。ベトナムに行けばフォーを、メキシコに行けばタコスを、マグレブに行けばクスクスを食べます。そうやって、現地のことが好きになる。帰ってからもいい思い出になる。どんなに景色が綺麗な国でも、食事が良くないと、いい思い出にならないでしょう。
誰もが、うまい飯を食べたいはずです。残された人生、1日3食、多彩でうまい飯を食べるためには、やはり貿易は不可欠でしょう。寿司が大好物でも、たまにはトリュフも食べたいし、ロブスターだって食べたい。和牛が一番だと思っても、韓国行ってプルコギを食べればやっぱりうまい。
だから、世界は仲良くしなければなりません。戦争になると、そもそも1日3食食べられなくなります。グローバリゼーションの弊害もあるかもしれませんが、少なくともうまい飯を食らうという点では、グローバリゼーションのメリットは大きい。うまい料理のためには、よい調理器具が必要です。料理は五感で食するもの。器や盛り付けも大事です。日本のすてきなお皿が欲しいとずっと思っていて、ようやく豊かになって購入できるようになった南の国の方々もいらっしゃるはず。
世界中で、分断が起こっていますが、今必要なのは、料理だと思います。でっかい壁をつくっても、解決にはなりません。何かお互いの国の間に重大な問題があったとしても、一緒にテーブルを囲んで、お互いの国の料理を提供しあうことができれば、お互いにうまい、うまい言っていれば、きっと解決に向かうと思います。料理がまずければ、きっと解決するよりも、関係は悪化に向かうでしょう。
2017年。世界が必要としているのは、腕の良い料理人だと思います。